ビジネス関連法律お悩み相談  実務に効く!ビジネスに関連する法律のトリセツ(会社法、M&A、役員の責任など)

ビジネスに関連する法律の裁判例や法律改正を具体的かつわかりやすくご説明します。

解雇の難しさ

時々、会社側の方から、解雇について相談を受けます。色々理由はあるのですが、多いのは、仕事ができない、周りとのコミュニケーションがとれない、パワハラがひどいなどです。また、まれに、労働組合に個人で加入して困っているという話もききます。

対応に苦慮することが多いのが実情です。よくお伝えするのは、採用時に注意すること、特に採用時に試用期間を必ずもうけてその間に勤務態度などをよくみることです。

日本では解雇が容易ではないので、採用時に注意をするのが、一番のポイントです。

 

しかし、雇用してしまった後では、手段は限られます。そこで、別会社を作って、そちらに事業を移して、解雇したい人(だけ)を解雇し、残りの人は、別会社で再雇用するということを考える人がいます。しかし、この方法はNGです。形式的には、会社廃業に伴う解雇ですが、別会社との雇用契約が継続しているとされるのが一般的です。

いくつか裁判例をご紹介します。以下事業譲渡した会社をA、譲り受けた会社をB、Aと雇用契約を締結したいた方をXとします。

大阪地決H6.8.5「いったんAの解散により解雇し、新たに新会社への採否を決定することで、事業廃止の自由、新規契約締結の自由との主張をし、同一会社の継続中であれば当然に問題となるはずの解雇法理の適用を受けずに、Xのような者を排除できるとの理屈もありうるのであり、Bは右の意図も併せもって、右解散、設立の機会を利用したものと推認せざるをえない。・・・Bが日本通信システムとの法人格の別異性、事業廃止の自由、新規契約締結の自由を全面的に主張して、全く自由な契約交渉の結果としての不採用であるという観点からXとの雇用関係を否定することは、労働契約の関係においては、実質的には解雇法理の適用を回避するための法人格の濫用であると評価せざるをえない。

阪高判H19.10.26「B親会社によるA子会社の実質的・現実的支配がなされている状況の下において、労働組合を壊滅させる等の違法・不当な目的でA子会社の解散決議がなされ、かつ、A子会社が真実解散されたものではなく偽装解散であると認められる場合、すなわち、A子会社の解散決議後、B親会社が自ら同一の事業を再開継続したり、B親会社の支配する別の子会社によって同一の事業が継続されているような場合には、A子会社の従業員は、B親会社による法人格の濫用の程度が顕著かつ明白であるとして、B親会社に対して、A子会社解散後も継続的、包括的な雇用契約上の責任を追及することができるというべきである。・・・B親会社・・・によるA子会社・・・の実質的・現実的支配がなされている状況の下において、・・・組合を壊滅させる違法・不当な目的でA子会社・・・の解散決議がなされ、かつ、Aが真実解散されたものではなく偽装解散であると認められる場合に該当するので、Xらは、B親会社・・・による法人格の濫用の程度が顕著かつ明白であるとして、Aに対して、B解散後も継続的、包括的な雇用契約上の責任を追及することができるといわなければならない。

長崎地判H27.6.16「甲は、AからXら組合員を排除する目的をもって、Aの長崎での運送事業を廃止し、Xらとの雇用関係を除いた有機的一体として同事業を支配下にあるBに無償で承継させ、XらをAないしその支配下にあるBから排除し、実質的に組合員であるXらのみを解雇したものである。これは法人格を濫用した不当労働行為というべきで、Aによる本件解雇は労働組合法7条により無効であり、かつ、Aの支配下にあるBは、信義誠実の原則に照らし、Aと別個独立した法人であるとして、AとXらの労働契約の効力が及ばないと主張することはできないというべきである。

形式だけを整えても、裁判所は実質を確認して判断するということです。

このあたりが法律の面白いところでもあり、難しいところです。

会社分割と雇用契約(最判H22.7.12、神戸地尼崎支H26.4.22)

M&Aの方法の一つに会社分割があります。会社の事業の一部を切り出して子会社化したり、会社の事業の一部を他者に譲渡する際に使われます。

事業の一部の切り出しになるので、当然従業員もその承継の対象になります。しかし従業員からすれば、いつの間にか勤めていた会社が変わってしまうことになるので、影響は重大です。

そこで会社法は、労働者保護のための一定の手続き要件を定めています。

しかし、なんとか手続きを回避して、自分たちの思惑通りに、事業を承継しようと画策する会社があります。例えばA社が、甲事業を会社分割で、B会社に承継した場合を考えます。A社で甲事業に従事していた従業員は、適正な手続きがされていれば、もともとの雇用契約のまま、B会社に承継されることになります。しかし、B会社に承継することを強く拒否したりする場合があり、手続きを回避しようとするケースがありえます。この点が問題になったのが、最判H22.7.12です。結論としては、手続きがされているとして、従業員側の請求を退けています。一部抜粋すると、以下のように判示しました。

「法は、・・・5条協議として、会社の分割に伴う労働契約の承継に関し、分割計画書等を本店に備え置くべき日までに労働者と協議をすることを分割会社に求めている(商法等改正法附則5条1項)。これは、上記労働契約の承継のいかんが労働者の地位に重大な変更をもたらし得るものであることから、分割会社が分割計画書を作成して個々の労働者の労働契約の承継について決定するに先立ち、承継される営業に従事する個々の労働者との間で協議を行わせ、当該労働者の希望等をも踏まえつつ分割会社に承継の判断をさせることによって、労働者の保護を図ろうとする趣旨に出たものと解される。・・・上記のような5条協議の趣旨からすると、承継法3条は適正に5条協議が行われ当該労働者の保護が図られていることを当然の前提としているものと解される。この点に照らすと、上記立場にある特定の労働者との関係において5条協議が全く行われなかったときには、当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の効力を争うことができるものと解するのが相当である。また、5条協議が行われた場合であっても、その際の分割会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため、法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合には、分割会社に5条協議義務の違反があったと評価してよく、当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の効力を争うことができるというべきである。」

 

また、A社での雇用条件を維持できない場合、一度A社を退職してもらい、B社に移ってもらうとうことをすることもあります。その際に、きちんと説明をしていれば問題ないですが、説明をしていないとトラブルになります。この点が問題となったのが神戸地尼崎支H26.4.22です。会社分割に基づく承継でなく、一度退職をさせて承継会社に転籍する手続きを取ったのですが、労働条件が悪化しているとして従業員側が会社を訴えたものです。判決は、従業員に対するきちんとした説明がないことを主な理由として従業員の主張(労働条件はA社との雇用契約が維持されていること)を認めました。

このあたりが、法律の面白いところであり、難しいところです!

資本金額減少の際の「債権者を害するおそれ」とは(大阪高判H29.4.27)

色々な要因で、減資をすることは時々あります。特に、事業再生のため会社規模を小さくする場合や、税務上のメリットをとる場合が多いものと推定されます。

減資の際に問題となるのは、会社法449条5項ただし書きです。つまり、減資に対して債権者は異議を述べることができるのですが、社法449条5項は「債権者が・・・異議を述べたときは、株式会社は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等・・・に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該資本金等の額の減少をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。」と定めています。

 この「当該資本金等の額の減少をしても当該債権者を害するおそれがないとき」がどういう時なのかが問題となるのです。割と重要な部分かとも思われますが、あまり裁判例もないようです。特に、債務超過の会社が減資をする際に問題となります。

   この点、大阪高判H29.4.27は「資本金の額の減少における『債権者を害するおそれ』については、当該資本金の額の減少によって抽象的に将来に向けて剰余金の分配可能性が高まる(会社財産に対する拘束が弱まる)というだけでなく、資本金の額の減少が債権者により具体的な影響を与えるかどうかを検討して判断すべきである。その判断に当たっては、資本金の額の減少の直後に剰余金の配当等が予定されているか否かに加え、当該会社債権者の債権の額、その弁済期、当該会社の行う事業のリスク、従来の資本金及び減少する資本金の額等を総合的に勘案し、当該会社債権者に対して不当に付加的なリスクを負わせることがないかという観点から行うべきである」としました。

 欠損填補するだけの減資であれば、会社財産に影響しないため、「債権者を害する」とは言いづらいと思われます。本件もそのようなケースだったようです。ただし、それだけを理由とすることなく、上記のような諸要因を分析して、判断を下しました。

 

このあたりが、法律の難しいところでもあり、面白いところです。

同族会社間におけるトラブル①(最判H17.2.15)

多くの中小企業は同族会社です。

「同族」といっても、必ずしもずっと仲がいいわけではありません。特に相続などが発生して代が変わると、ほとんど付き合いのない者が株主となることもありえます。また、兄弟で株を持っていたとしても、何かのきっかけで仲が悪くなることもあります。

 

同族会社で、問題がおきない状況ですと、会社法や定款で本当は行わなければならない手続きを省略して何もしないということがあります。特に、株主総会や取締役会が、ほとんど開催されていない企業はかなりあると思われます。

 

ところが、同族間で争いになった場合、この手続きに欠けることが、大きな問題となることがあります。例えば、役員報酬決定には定款や会社法株主総会決議が必要とされているのに、株主総会決議に欠けることから、無効だという主張がされるのです。

 

手続上の瑕疵は結構怖いです。比較的立証が容易ですし、裁判官も手続上の瑕疵には厳しいからです。ただ、一つ救いとなる最高裁判例があります(最判H17.2.15)。この判決は、あわてて事後的に役員報酬株主総会決議を得たケースにつき「株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われた場合であっても、これについて後に株主総会の決議を経ることにより、事後的にせよ上記の規定の趣旨目的は達せられるものということができるから、当該決議の内容等に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り、当該役員報酬の支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものになるというべきである。そして、上記特段の事情の存在することがうかがえない本件においては、本件決議がされたことにより、本件役員報酬の支払は適法有効なものになったというべきである。」として、有効としました。

しかし、この判決があるからといって安心するべきではありません。前述のとおり、手続き上の瑕疵について、裁判官は厳しいことが多いので、手続きはきちんと履践すべきです。

 

このあたりが、法律の面白いところでもあり、難しいところです。

インターネット事業を譲り受ける上での注意点(知財高裁H29.6.15)

近時M&Aが活発になっていますが、インターネット事業を譲り受ける場合には、特に競業避止義務に注意が必要です。

 

この点が問題になったのが、知財高裁H29.6.15です。

これは、インターネット事業を譲りうけたX社が、譲渡したYに対して、競業避止義務違反あるとして、会社法21条3項に基づく事業の一部差し止めと、民法709条に基づく損害賠償請求をしたものです。

第1審は、差し止めのみ認め、控訴審はさらに損害賠償請求も認めました。

判断の過程で、Y社がX社に事業を譲渡した後に継続した事業が、競業と言えるのか、また、仮に競業避止義務違反があるとして、Xの損害があるのかなどが問題となっています。

競業にあたるか否かは、破断が簡単でないことも多いです。特にインターネット事業は比較的簡単に広範囲の商品を扱えるので、判断が難しくなります。また、損害についても、顧客の範囲が明確でないため、顧客を取ったといえるのかどうかなどが、かなり判断が難しくなります。

 

そこで、やはり契約が大切になります。契約であらかじめ、競業の範囲や損害の推定条項などを入れておけば、紛争になることは避けられますし、買い手としても安心して事業を譲り受けられます。

近時、サイトなどを通じて、比較的小規模のM&Aも盛んなようですが、小規模の場合ほど、競業避止義務には注意が必要だと思われます。

譲り受ける側はもちろん、譲り渡す側も注意しましょう!

 

このあたりが法律の面白いところであり、難しいところです。

グループ企業と取引をする際のリスク(最判H28.7.8)

近時、会社内で複数の事業を行うのではなく、グループ企業を形成して、事業ごとに会社を分けることも多く行われている。これはM&Aが多くなり、事業を取得したり売却することが多くなっていることも影響しているものと思われます。

 

ところで、例えばXが同一グループ内のあるA企業に債権を有していて、一方で同一グループの別のB企業に債務を有している場合、XがA企業に対する債権とB企業に対する債務を相殺することは可能でしょうか?これはできません。相殺の要件として、同一の当事者間で債権債務が対立していることが必要だからです。

 

では、同一グループ間で相殺を可能という合意があった場合はどうでしょうか。

具体的には、Xが同一グループ内のあるA企業に債権を有していて、一方で同一グループの別のB企業に債務を有している状態で、事前に、同一グループ間で相殺することができるという合意があったとします。

そして、Xが倒産したとします。

この場合、B企業とA企業は、B企業のXに債権と、A企業のXに対する債務を相殺することを主張できるでしょうか?もしできなければ、A企業は債務全額をXに支払わなければならない一方で、B企業は債権を倒産債権としか行使できず、最悪の場合、全く回収できなくなってしまいます。

この点が問題になったのが最判28.7.8です。

Xが民事再生をしたのに対し、Xとデリバティブ取引をしていたA企業が、デリバティブにより生じたXに対する債務を、ISDマスター契約に基づき、Aのグループ企業であるB企業のXに対する債権と相殺をできると主張しました。この主張が認められるかどうかが問題になりました。

第1審、控訴審とも相殺を認めましたが、最高裁は認めませんでした。民事再生法は相殺について厳しい定めがあり、法の定めを重視した判断です。なお、同様の定めは破産法や会社更生法にあります。

 

この判例はISDマスター契約に関するものですが、その判示内容からすれば、それ以外のグループ企業間の債権債務を相殺する旨の合意をしていた場合でも異ならないものと考えられます。

グループ企業と取引をする場合で、ある企業に対しては債権が、別のグループ企業に対しては債務がある場合、債権管理上、この判例には留意をする必要があると考えられます。相殺ができない可能性があることも含めて、債権管理をする必要がありますので、ご注意ください。

 

このあたりが、法律も難しいところでもあり、面白いところです。

会社の業況が悪い状況で取引を継続することと、取締役の第三者責任について(高知地裁平成26年9月10日)

会社の業況が悪化していてたとしても、なんとか事業を継続しようとしてやや無理をして取引を継続することは、一般的にみられるところです。

一方で、取締役は、その職務により第三者に損害を与えた場合。悪意・重過失がある場合、損害賠償責任を負います(会社法429条1項)。

そこで、会社が倒産した後、損害を被った会社の取引先が取締役に対して損害賠償請求をすることがあります。

しかし、認められるケースはほとんどありません。

例えば、高知地裁平成26年9月10日判決(控訴審も同内容)は責任を認めませんでした。しかし、大阪高平成26年12月19日判決のように、認められた事例もあります。

いずれも事例判断で、諸般の事情を勘案して判断をしています。

悪意・重過失の判断となりますので、どうしても明確な基準がたてにくいところです。

取締役としては、難しい判断が迫られることになりますが、後に責任を問われえるリスクを考えて、会社再建ができる可能性、その検討にあたってきちんと情報を収集すること、取引先に虚偽の説明をしないことなど、一定のラインを守ることが大切です。