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会社分割と雇用契約(最判H22.7.12、神戸地尼崎支H26.4.22)

M&Aの方法の一つに会社分割があります。会社の事業の一部を切り出して子会社化したり、会社の事業の一部を他者に譲渡する際に使われます。

事業の一部の切り出しになるので、当然従業員もその承継の対象になります。しかし従業員からすれば、いつの間にか勤めていた会社が変わってしまうことになるので、影響は重大です。

そこで会社法は、労働者保護のための一定の手続き要件を定めています。

しかし、なんとか手続きを回避して、自分たちの思惑通りに、事業を承継しようと画策する会社があります。例えばA社が、甲事業を会社分割で、B会社に承継した場合を考えます。A社で甲事業に従事していた従業員は、適正な手続きがされていれば、もともとの雇用契約のまま、B会社に承継されることになります。しかし、B会社に承継することを強く拒否したりする場合があり、手続きを回避しようとするケースがありえます。この点が問題になったのが、最判H22.7.12です。結論としては、手続きがされているとして、従業員側の請求を退けています。一部抜粋すると、以下のように判示しました。

「法は、・・・5条協議として、会社の分割に伴う労働契約の承継に関し、分割計画書等を本店に備え置くべき日までに労働者と協議をすることを分割会社に求めている(商法等改正法附則5条1項)。これは、上記労働契約の承継のいかんが労働者の地位に重大な変更をもたらし得るものであることから、分割会社が分割計画書を作成して個々の労働者の労働契約の承継について決定するに先立ち、承継される営業に従事する個々の労働者との間で協議を行わせ、当該労働者の希望等をも踏まえつつ分割会社に承継の判断をさせることによって、労働者の保護を図ろうとする趣旨に出たものと解される。・・・上記のような5条協議の趣旨からすると、承継法3条は適正に5条協議が行われ当該労働者の保護が図られていることを当然の前提としているものと解される。この点に照らすと、上記立場にある特定の労働者との関係において5条協議が全く行われなかったときには、当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の効力を争うことができるものと解するのが相当である。また、5条協議が行われた場合であっても、その際の分割会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため、法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合には、分割会社に5条協議義務の違反があったと評価してよく、当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の効力を争うことができるというべきである。」

 

また、A社での雇用条件を維持できない場合、一度A社を退職してもらい、B社に移ってもらうとうことをすることもあります。その際に、きちんと説明をしていれば問題ないですが、説明をしていないとトラブルになります。この点が問題となったのが神戸地尼崎支H26.4.22です。会社分割に基づく承継でなく、一度退職をさせて承継会社に転籍する手続きを取ったのですが、労働条件が悪化しているとして従業員側が会社を訴えたものです。判決は、従業員に対するきちんとした説明がないことを主な理由として従業員の主張(労働条件はA社との雇用契約が維持されていること)を認めました。

このあたりが、法律の面白いところであり、難しいところです!