グループ企業と取引をする際のリスク(最判H28.7.8)
近時、会社内で複数の事業を行うのではなく、グループ企業を形成して、事業ごとに会社を分けることも多く行われている。これはM&Aが多くなり、事業を取得したり売却することが多くなっていることも影響しているものと思われます。
ところで、例えばXが同一グループ内のあるA企業に債権を有していて、一方で同一グループの別のB企業に債務を有している場合、XがA企業に対する債権とB企業に対する債務を相殺することは可能でしょうか?これはできません。相殺の要件として、同一の当事者間で債権債務が対立していることが必要だからです。
では、同一グループ間で相殺を可能という合意があった場合はどうでしょうか。
具体的には、Xが同一グループ内のあるA企業に債権を有していて、一方で同一グループの別のB企業に債務を有している状態で、事前に、同一グループ間で相殺することができるという合意があったとします。
そして、Xが倒産したとします。
この場合、B企業とA企業は、B企業のXに債権と、A企業のXに対する債務を相殺することを主張できるでしょうか?もしできなければ、A企業は債務全額をXに支払わなければならない一方で、B企業は債権を倒産債権としか行使できず、最悪の場合、全く回収できなくなってしまいます。
この点が問題になったのが最判28.7.8です。
Xが民事再生をしたのに対し、Xとデリバティブ取引をしていたA企業が、デリバティブにより生じたXに対する債務を、ISDマスター契約に基づき、Aのグループ企業であるB企業のXに対する債権と相殺をできると主張しました。この主張が認められるかどうかが問題になりました。
第1審、控訴審とも相殺を認めましたが、最高裁は認めませんでした。民事再生法は相殺について厳しい定めがあり、法の定めを重視した判断です。なお、同様の定めは破産法や会社更生法にあります。
この判例はISDマスター契約に関するものですが、その判示内容からすれば、それ以外のグループ企業間の債権債務を相殺する旨の合意をしていた場合でも異ならないものと考えられます。
グループ企業と取引をする場合で、ある企業に対しては債権が、別のグループ企業に対しては債務がある場合、債権管理上、この判例には留意をする必要があると考えられます。相殺ができない可能性があることも含めて、債権管理をする必要がありますので、ご注意ください。
このあたりが、法律も難しいところでもあり、面白いところです。