債務超過子会社の整理は、特別清算をしておけば税務上問題ない??(東京高裁平成29年1月19日)
債務超過子会社を整理する場合、特別清算を利用することは、よく行われています。
これは、任意整理だと、税務上、親会社の債権放棄を損金算入することが難しいことに起因します。
では、特別清算をしておけば、常に親会社は債権放棄額を税務上損金算入できるのでしょうか?
そんなことはありません。
東京高裁平成29年1月19日は、親会社が財務改善計画の一環として、子会社2社を特別清算したケースで、親会社の当該子会社に対する債権の債権放棄を税務上損金算入できないとしました。
もちろん事例判断ではありますが、特別清算さえしておけば大丈夫というわけではないという点で、重要な裁判例です。もっとも本件は、別の子会社に事業譲渡したうえで、子会社2社を特別清算したようですので、その点も考慮されたのかもしれません。
一つ留意が必要なのは、「基本通達9-6-1(2)が、特別清算の手続における金銭債権の消滅事由について、「特別清算に係る協定の認可の決定があった場合」に限定して、当該決定により切り捨てられることとなった部分の金額につき、貸倒れとして損金の額に算入するものと定めており(このことは、同通達が『等』といった文言を用いていないことからも明らかである。)、特別清算協定認可の決定によらずに当事者間の合意で切り捨てられた部分の金額については損金算入を認める旨の文言が見当たらないことからすれば、特別清算手続において、裁判所の上記認可の決定によらずに個別和解等により切り捨てられることとなった部分の金額については、上記の場合に該当しないものとして、基本通達9-6-1(2)の適用を受けないものと解するのが相当である。」としている点です。個別和解ができれば、特段の事情がない限り協定の認可決定を得ることも可能なので、この判示は納得がいきません。ただ、特別清算で税務上の損金をとる場合には、今後は、協定認可決定を得るほうが、安全ということになると思われます(協定認可決定を得ていた場合、この判決の結論が違うものになっていたかと言うと、よくわかりませんが)。
いずれにしても、債権放棄を税務上損金算入するには相当な理由が必要であり、その点を補強する一つとして特別清算手続を利用することは妥当ですが、それだけでは認められないということは肝に銘じておく必要があります。
このあたりが、法律の難しいところでもあり、面白いところです!
債務者が破産した!連帯保証人がいるから大丈夫?
債務者(貸付先や、売掛先)が破産しました。
連帯保証人がいれば、大丈夫でしょうか?
連帯保証人に資力があれば、そのような考え方で基本的に大丈夫です。
ただ、時効には注意が必要です。
主債務者に民事再生が開始され、再生計画案が認可決定確定した場合、主債務は再生計画案に従って減縮(=債権カット)され、一方で時効は10年になります。
もともとの時効期間は5年であることが多いと思われますが、伸びます。
では、この場合、保証人の債務はどうなるでしょうか?
まず、保証人の責任は減縮(=カット)されません。
これは民事再生法に明記されています(民事再生法177条2項)。
では、時効はどうでしょうか?
時効についても、主債務の影響を受けないと考えれば5年のまま(もともとが5年であればですが)ということですが、もし影響するとなれば10年となります。
結論としては、10年になると考えられています。
東京地判平成26.7.28で、そのように判示されました。
主債務者が、倒産した時こそ、連帯保証人をつけている意味があるのです。
だから、連帯保証人に厳しい解釈をされることが多くなるのはやむを得ないものと思われます。
このへんが、法律の難しいところでもあり、面白いところでもあります。
就業規則を従業員に不利益に変更するための手続きについて(大阪高判H28.10.26)
就業規則を不利益に変更した手続に違反があったとされた裁判例(大阪高判H28.10.26。以下「本件事案」といいます。)をご紹介します。
就業規則は従業員にとって、とても大切なものです。普段あまり見ないかもしれませんが、仕事をするうえで基本的な条件が記載されています。
従って、就業規則を従業員に不利益に変更するためには、労働契約法第9条、第10条は以下のように定めています。
第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働
者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、
次条の場合は、この限りでない。
業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程
度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との
交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
は、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによ
るものとする。(以下略)
株主総会で株主の代理人弁護士の出席を認めないことは違法か(札幌高判R1.7.12)
いわゆる同族会社において、株主間で紛争になることは少なくありません。
相続が発生して相続人に株式が分かれたり、最初は仲良く株式を持ち合い経営していた兄弟仲が悪くなったりするようなケースが典型です。東京地方裁判所の民事8部は、会社法関係の紛争処理を専門に行っているのですが、かなりの割合が、このような同族間の争いであると聞いたこともあるぐらいよくある紛争です。
さて、そのような紛争が発生した場合、多数派株主から選任された経営者が株主総会において、少数株主の代理人として弁護士が出席することを拒否する戦法をとることがあります。これは許されるのでしょうか?
その場合は、まず定款で、株主総会で議決権を行使できるのを株主に限ると制限しますこのような定款があることによって、株主でない弁護士は出席できなくなりそうです。このような定款が有効であることは最高裁判例で認められています(最判S43.11.1)。理由は株主総会が株主以外の第三者によって錯乱されることを防止するという合理的な理由による相当な制限だからというものです。
では、少数株主の代理人に選任された弁護士はその会社の株主ではないとして、この定款に基づき、出席を拒否することができるのでしょうか?。
拒否できるとした裁判例も複数あります(東京地判H27.10.29など)。しかしながら、札幌高判R1.7.12(ジュリスト1550号2頁)は、弁護士の出席を拒否できないとしました。理由は、弁護士であれば株主総会を錯乱させるおそれがないと容易に判断できるからというものです。
「本当かな?」という感じはします。弁護士だから余計に錯乱させるようにも思われます。ただ、弁護士はいわゆる不規則発言などをして総会を錯乱させることはないでしょうね(仮に、そのような方法で錯乱させるとすれば、懲戒事由に該当しかねません。)。そういう意味では、弁護士は錯乱させるおそれがないということも言えるかもしれません。
いずれにしても、最高裁判例があるわけでもなく、下級審では判断がわかれていますので、まだ決着していない論点ということができます。
こういうところが、法律の難しいところですが、面白いところです!
雇用契約の無期転換申込権の衝撃(高知地判R2.3.17の紹介)
労働契約法18条は有期労働契約が5年以上に達した場合、無期に転換する旨を定めています。昔はこのようなルールはなく、例えば1年の有期契約が繰り返し更新されていても無期になることはありませんでした。つまり、法律上は、更新更新で10年とか継続して勤務しても、常に更新が拒絶される可能性をかかえながら勤務することになっていました。
このルールができたことで、有期労働契約の方の地位が安定すると期待されましたが逆に、4年ぐらいで更新が拒絶されるという事態もおきています。
高知地判R2.3.17(ジュリスト1547号4頁)は、まさにこのような事案で、もともとのプロジェクトが5年程度を予定していたにもかかわらず、プロジェクトの途中の約4年たったところで更新拒絶したことが有効かどうかが争われました。
裁判所は、プロジェクトが5年あったので、5年間雇用が継続されるという期待があり、このような期待には合理的な理由があるとしたうえで、さらに、無期転換申込権があった認めて、無期転換が成立したと判断を致しました。
これは雇用主側には少々衝撃です。今後は、事案によっては、雇用を開始する時点で、5年間より短い期間で更新を止めるなど、雇用開始する時点できちんと説明をする(さらには説明したことを残しておく)必要があるように思われます。
こういうところが、法律は難しいところですが、面白いことろです!